「次世代の東映アニメーション」を掲げるAIアニメ企業、Creator's X
投稿日:2026/10/21 (水)
ひとことで言うと
AI企業でありながら、スタジオを買収して制作を手がけ、製作委員会にまで名を連ねる会社です。
事業内容
Creator's Xは、アニメ制作のためのAIを開発する会社です。
「AIの会社」と聞くと、AIを使い、無人でアニメを作っているイメージを持つ方も多いかもしれません。実はその逆で、Creator's Xは買収によっていくつかのアニメスタジオを取得しており、その1社は元々木下グループ傘下だったガイナ、現在のBENTEN Filmです。Creator's X自体はAIエンジニアを抱えてAIツールの開発とスタジオの経営支援を担い、実際の制作は子会社のスタジオが担当しています。
abushunのひとこと ガイナといえば、ガイナックスの流れをくむスタジオとしてアニメファンには知られた存在だったと思います。2014年に福島県三春町でガイナックスの子会社「福島ガイナックス」として生まれ、翌年に独立し、2016年には東京に構えたスタジオでガイナックスのアニメ制作スタッフ全員を受け入れています。木下グループ時代には『ピアノの森』の第2シリーズなども手がけてきました。そんな歴史あるスタジオを創業1年半ほどの会社がグループに迎えたというのは、かなり大きな出来事だと感じます。
アニメクリエイターの中には、AIがアニメを丸ごと作ってしまうことに抵抗を感じる方も多いと思います。Creator's Xが目指しているのは、まさにその逆の、AIとクリエイターの共存です。AIはあくまで手間のかかる中間工程を補助する役割で、主役はクリエイター。AIに作業の一部を任せることで、クリエイターがより創作に集中できる環境をつくろうとしています。
なぜわざわざスタジオを持つのか。それは、現場で使えるAIは現場の中でしか作れないからです。AIで質の高い絵を出せても、実際の制作に使えるレベルまでには大きな差があります。そこでCreator's Xは、週2回のAI開発の定例会議に毎回スタジオの制作スタッフを招き、現場の声を直接開発に反映してきました。さらに、スタジオを運営していることで、通常は社外に出回らない制作途中の素材にも直接触れることができます。
グループには他にも、名古屋のアニメ制作会社「K&Kデザイン」、アニメの企画・制作を行う「スタジオねねね」、ショートアニメの企画・制作とIP開発を手がける「アイズ」、背景美術専門の「スタジオSAIGA」があり、グループ全体で約100名の体制になっています。
AIで生まれた効率化の成果は、クリエイターに直接還元しています。自社スタジオでは業界水準より高い固定給を設定し、ノルマを超えた分には1カット1,000〜2,000円のインセンティブを支給しています。
資金面でも勢いがあります。2025年11月には博報堂DYグループなどから出資を受け、金融機関からの借り入れと合わせて総額19億円を集めました。今後はスタジオの買収や、実績あるプロデューサーを迎えた新スタジオの立ち上げを進めていく構想です。
IVSでの登壇では、作品名はまだ明かせないとしつつ、すでに製作委員会にも参加し、商品化権やイベント化権も取得する見込みだと語っていました。目指す姿として掲げていたのは「次世代の東映アニメーション」、そして「新時代のデファクトスタンダード」になること。制作を請け負うだけでなく、作品の権利を持つ側にも足を踏み入れている点で、一般的な制作会社とは一線を画しています。
創業者プロフィール
藤原俊輔氏
慶應義塾大学法学部政治学科を卒業後、アビームコンサルティングとデロイトトーマツコンサルティングで戦略コンサルタントとして、新規事業の立ち上げや企業買収の支援に携わってきました。その後、支援する側ではなく当事者として事業を動かしたいという思いから、2022年にU-NEXTホールディングスへ移り、ロボティクスやAI分野の事業立ち上げを率いています。現在はCreator's Xで、アニメスタジオの管理や作品の権利まわりを担当しています。
湯浅義朗氏
大学在学中に「ねこじゃらし」の創業メンバーとして参画し、いくつもの事業を立ち上げてきた生粋の起業家です。その後DMM.comに移り、新規事業の立ち上げや買収した会社の経営に携わり、子会社の代表も務めました。U-NEXTホールディングスを経て、約20年にわたりクリエイティブやエンタメ分野で事業をつくってきた経験を持ちます。現在はCreator's Xで、新規事業やスタジオの買収を担当しています。
二人の出会いと独立
二人が出会ったのは、U-NEXTホールディングスのCEO室です。同じチームで新規事業の提案と推進を担っていました。ある案件が一段落したころ、知人から「AI×アニメ制作」の相談が舞い込みます。業界のことを調べようと制作関係者に話を聞いて回ると、まだ何も形になっていない二人に、大手を含む複数の制作会社から「ぜひ協力したい」という声が上がり、本人たちも驚いたといいます。
当初はU-NEXT社内での事業化も検討しましたが、本業が配信プラットフォームである以上、自らアニメスタジオとして作品を作るのは難しいという判断に。それでも、現場で困っている人の多さを知った二人は、自分たちにも力になれることがあるはずだと、会社を飛び出して起業する道を選びました。そして、ただAIツールを作って渡すだけでは意味がないと考え、自ら制作の現場を持つことに踏み切ります。
二人が目指すもの
二人が危惧しているのは、アニメ業界の未来です。長時間労働や、人づての縁で仕事が回っていくやり方など、業界で当たり前とされてきた慣習を打開したいと考えています。まず自分たちのグループで健全な制作環境を実現してみせ、その形を業界全体に広げていく。その先に、クリエイターを目指す若者が増えていく未来を描いています。
abushunのひとこと アニメ業界は過酷だという話は、さまざまな業界関係者から耳にします。藤原氏も、その影響が人手不足につながっていると指摘しています。日本の成長産業として海外と戦っていくためにも、優秀な人材を集めるためにも、労働環境の見直しは欠かせないのだと改めて感じました。しかも代表の二人がアニメ業界の外から来たというのも面白いところ。業界の常識に縛られない二人こそ、日本のアニメ業界に風穴を開ける挑戦者なのかもしれません。
参考
この記事を書いた人
abushun
株式会社ネルフィン 代表取締役社長 / ZEN大学生 / 富山県高岡市出身
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